妖怪や民俗学をヒントに、社会の生きづらさを乗り越えるような物語をつくる

2023-02-16

子どもをまんなかに思うギフトストアsoeru(ソエル)は、アーティストとコラボレーションしたデザインのギフトカードを取り扱っています。第1弾のコラボレーションアーティストは、Toyama Tomさん。今回のジャーナルでは、Tomさんのインタビューをお届けします。

 

Tomさんは、全国を旅をしながらローカルに根ざした民話や神話などを紐解き、絵や漫画に残す活動をおこないながら、CIに特化したアートディレクター、グラフィックデザイナー、イラストレーターとしても活動されています。

 

いま最も力を入れているのは漫画を描くこと。自分自身のルーツと社会課題に向き合いながら、物語と表現を探求中だといいます。その活動の背景にある思いをうかがいました。

デザイナーから漫画家の道へ 

— デザイナーと漫画家というと、一見近そうですがその内容はまったく違うように思います。どのような経緯で現在のようなスタイルになったのでしょうか?

 

仕事のひとつの側面は、企業のアイデンティティをはじめとするBI=ブランド・アイデンティティのデザインを専門に行っています。BIというのはブランドの世界観を一貫して設計していくようなことをやっています。コンセプトをつくるような抽象的なところからご一緒して、それをどうかたちにするか、メッセージにするかというのを考えて、グラフィックなどを作成して、リアルの側に落とし込んでいくというのが主な仕事です。

 

いまは主に3社に携わっています。選んでいるわけではないのですが、3社とも社会課題の解決を掲げているのが面白いですね。自分自身、社会課題への関心は強いので、ビジネスを通して社会を多くの人にとって住み良いものにしたいという姿勢を共有できる企業と一緒に仕事をしたいと思っています。

 

— クライアントワークが充実しているとその道でずっと生きていくという選択肢も取れるし、その割合も高い印象があります。どのようなきっかけで漫画を描くという方向性になっていったんでしょうか?

 

自分の好みみたいなところもあるんですが、「これを描きたい」「こういう価値観を大事にしたい」みたいな気持ちが自分の中にあって、やっぱりそれは表現していこうと決めたからですね。ビジネスの特性上、全てをサービスに落とし込むことはできません。

 

じゃあ漫画で100%表現できるのかといえば、自分の技量的な問題で難しいこともいっぱいあるんですけどね。自分の中にクライアントがいて、自分に自分がちゃんとOKを出すというのをやりたいんです。

 

漫画家や映画監督の友だちがいるんですが、彼らが脚本とか作品の話をするときって顔がめちゃめちゃ輝いてて眩しんですよ。自分も物語によって救われてきたし、漫画とか映画とかアニメとかすごく好きだから、そういうエンターテインメントを自分も作りたいという気持ちがわきあがってきて、ちゃんと出したいって思ったんですよね。

 

あとは本当に純粋に、描かないと死ぬ間際に後悔するなという気持ちです。

アイデンティティやマイノリティについて描いていきたい

▲秋田県の男鹿で開催された「なまはげ柴灯(せど)まつり」に参加。なまはげと記念写真

 

— Tomさんが今描いている漫画は、アイヌの女の子が死者の世界に迷い込んでしまう話だとうかがいました。今までの作品も妖怪が出てきたりするのがポイントだと思うんですが、このあたりの背景はなぜなんですか?

 

僕自身がゲイで、19歳まで地元の北海道で過ごしました。周囲の大人やメディアから発せられる「あなたは普通ではない」と言わんばかりのメッセージに心を砕かれ、自分の一部であるアイデンティティに悩んできました。

 

一方、幼少期から好きな妖怪の物語や民話の中には、マイノリティの存在が下敷きにされていることも少なくありません。2つが僕の中でリンクして、どう物語として表現できるのだろう?ということを起点に描いています。

 

いまは将来的に漫画家として食べていくことができるように、自分が描きたい世界観や伝えたいニュアンスを全部盛り込んで描く。それを持ち込んだりして外部の視点ももらって、自分自身が自分の作品を見れる目も養っていくというようなところです。具体的には、連載をしたい。その思いで描いています。

 

— 今の作品に自分自身のルーツは経験はどれくらい影響しているでしょうか?

 

めちゃめちゃ影響していると思います。自分の信じている世界観、これまでに経験した自分の悔しさやままならなさ、社会へのフラストレーション。そういうものがあって、救ってくれはのは物語だったんです。だから自分が表現するときも、やっぱりそこなしには作れないと思っています。

 

例えば、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』、水木しげるの鬼太郎なんかは、ぱっと思いつく大事な作品で。世界観やキャラクター、物語みたいなものに影響を受けています。

 

これらの作品にも言えるけれど、自分が描かなきゃって思ったときに感じたのは、今の世界との地続き感を大事にしようということでした。日々、日本全国で妖怪巡りをしているんですが、造形物とかキャラクターというだけではなくて、その裏にいるマイノリティの存在を感じるんです。例えば河童も水子供養の側面があったり、鬼というのが実は中央政権に対抗した地方豪族だったのでは、という話もあって。そういうのが各地域にずっと語られ続けていて、それを残しておきたいなと思ったのも原動力のひとつだと思います。

 

だからいまは、民俗学や実際のストーリー、伝説などを題材にして、アイデンティティだとか、そこに生きる人のままならなさや生きる活力を描きたいという思いがあります。

信じている何かは本当に正しいのか?

— まだ途上だと思うのですが、人に伝えていきたい思いを言葉にするとどのようなものになりますか?

 

まだ全然描いていないようなものなのでなかなか言いづらいですが、いま社会に対するフラストレーションがある中で、あなたが信じている「普通」や「常識」って本当に正しいのか、ということかなと思います。

 

いろいろなところで、枠組みや従来のやりかたを維持することが目的化していないかという気持ちがすごくあって。マイノリティをはじめ、ある枠からはみ出す人たちは生きにくいとか、その枠の中でがんばっているけれど実は生きにくいというのがたくさんあるように思うんです。これは構造的にそこらじゅうに無数にあって。だからそういうものを疑ったり、自分が豊かに生きるためにどう組み替えていけばいいんだろうということを一緒に考えていきたいなと思っています。

 

妖怪もその生きるすべのひとつだったろうとも思うんです。妖怪に暗いものを託すというように。でも、今の世界であればもっといろいろな手段がある。そういうふうに思うんですよね。

 

そういうことのヒントになるような物語が描けたらうれしいです。一方で、基本的に人は変わらないというようにも思っているので、自分自身が信じたものを描き続けて、そこに何か感じてくれる人がいたらうれしいなというくらいの気持ちで描いていこうと思っています。

 

— こういう社会に向かっていってほしいという願いはありますか?

 

みんながそれぞれ自分の豊かさとか、幸せのものさしをもっていることが普通になっているような世の中かな。何かの価値観を外野がジャッジしたり、正解を押し付けたりするんじゃなくて。「私はこう思う」「あなたはそう思うのね」というのを、お互いに信頼し合うようなかたちです。こうすべきだというように、人の人生に介入してくる人が多い社会なんですけど、それぞれが尊重できるようになればいいんだと思っています。

 

そのために必要なのは、知性と対話スキル。わたしは知性は「当たり前を疑う力」だと思っていて、そういう目をもって社会を見ていくようなことは大事だと思うんです。そして対話をあきらめないというところからスタートのような気がします。

 

今回関わらせてもらったsoeruも、個人的にはお守りっていうコンセプトがすごく気に入っているし、それを提案させてもらったのは良かったと思っています。サービス自体も、みんながそれぞれ幸せのものさしをもっているというのを体現したようなものでもあると思うし、多くの人に届けば良いなと思っています。

 

Toyama Tomプロフィール:

合同会社「人魚」代表。エロスとノスタルジーと妖怪を愛する絵描き。旅をしながらローカルに根ざした民話や神話などを紐解き、絵や漫画に残している。男の子に恋をする男の子。2018年フォトグラファーのレスリーキー氏を招いたLGBTフォトブライダルプロジェクトharMonyを企画し、ポーラ ミュージアム アネックス、渋谷MODIにて展示会開催。現在はCIに特化したアートディレクター、グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活動中。

Twitter: https://twitter.com/toyamarudasi

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